プロセスバンク by 得田裕介

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世の大きな動きでも、自分の足下にブリッジングできるようになる_「軽減税率 国民負担約1兆円減」について

今日は、「軽減税率」ってどういうもので、どんな背景からなっていて、どんな論点を抱えているのだろうという素朴な疑問を解消してみようと思います。

私にとって、発端となったのはこの記事。

www.yomiuri.co.jp

軽減税率について、簡単な説明です。

まず、2017年4月に消費税が10%に上がることが発端です。我々消費者にとっては、この前8%になったばかりなのに気がつけば…と流されていくような感じですが。

しかし、その際に、酒類・外食を除く食品や新聞の税率は8%のまま据え置かれるというのがこの軽減税率です。

 

消費税には、現在は課税、非課税、不課税、免税の4区分があります。そこに新たに加わることとなります。

なぜ必要かというと、消費税には「逆進性」という性格があるからです。消費税は全ての人に一律に掛かりますから、裕福な方も所得の少ない方も、同じように負担が掛かります。もちろん、税金の「額」は裕福な方の方が大きくなるでしょうが、所得に対する税負担の「比率」は、所得の少ない方の方が大きくなるということです。

税率が二桁にもなると、その問題は大きくなるので、この時点でその対策をうっておこうと。

これは以下の表のように、ヨーロッパ等をみれば、むしろ日本は後進なんだと知らされます。

 

  標準課税率ー食料品の軽減税率

英国:20% ー 0%

フランス:20% ー 5.5%

ドイツ:19% ー 7%

イタリア:22% ー 10%

中国:17% ー 13%

※本表の出典:日経12・10「きょうのことば」軽減税率

 

しかし、その問題を是正するために、一つの問題が浮上します。それは、税を軽減することによって、本来増額するはずの2%分の税額の内、約1兆円が徴収できなくなるということです。

その財源をどうやって補うか、その方策が、低所得者に医療や介護の窓口負担で上限を設ける総合合算制度の見送りによる約4000万円の振替え以外には、目処が立っていないとのこと。

 

そこで、この課題に対する朝日新聞、読売新聞、毎日新聞の「社説」を見てみました。

朝日新聞においては、「社会保障と税の一体改革」の思い起こしを強く論じています。国債などに頼らず、次世代へのツケを少しでも減らして、税収は全て社会保障分野にあてるはずではなかったかと。低所得者対策の一つを犠牲にするという点も批判しています。

読売新聞と毎日新聞は、全く共通する主張もありました。それは、「益税」の縮小です。益税とは、事業者が預かった消費税を、国庫に納入せずに利益とできる中小企業への特例措置です。益税規模は年6000億円に上るとも試算されています。

その他には、毎日新聞から、たばこ税の増税ジェネリック使用による薬剤費の削減なども挙がっています。

 

こういった「財源」の問題の他には、「軽減対象」や「経理方式」といった問題が挙がります。

 

「軽減対象」においては、種類、食料品、新聞となっていますが、食料品では「外食」が除かれます。

軽減税率は、低所得者の税負担を軽減するという目的がありますが、結局のところ、富裕層も同じくその恩恵を受けてしまいます。しかし、外食(高級料理店等)というのは、主に富裕層が利用するわけだから、そこは負担を大きくしようということです。

しかし、この対象外とする「線引き」が様々なシチュエーションや物によって変わってくるため、明確な指針が求められています。

この点は、他国を見ると特徴的で面白いものがありますので、少しご紹介します。

英国も同様に、外食では標準税率の20%で、持ち帰りには軽減税率の0%適用です。しかし、持ち帰りでも「食品の温度が気温より高いかどうか」で異なります。ピザの「温かい物」は20%、すしなど「冷たい物」は0%となります。

フランスでは、レストランやカフェでの外食は、10%の軽減税率の対象。さらに、持ち帰れば、食品と同じ5.5%の税率となる。さらには、レストランからの持ち帰りは、味が変わるなどすぐに食べる必要のある物は10%、時間がたっても大丈夫なものは5.5%と決まっているそうです。しかし、さすがに基準が曖昧なため、多くのレストランは基本的に10%をとっているようです。

私は、2年ほど前にフランスに旅行に行きましたが、この軽減税率の線引きはほとんどきづかないままでした。購入するとき、イートインかテイクアウトかを問われたこともなかったような気がします。フランス語が通じないからでしょうか。あまり意識もなかったこともありますが、結構、どんぶり勘定みたいに一律にしているのではと疑ってしまうようなところもあります。(私がきづいていないだけで、厳格な運用があるようでしたら、すみません。)

これから日本においても、俺は持ち帰りのつもりだったのに、10%が課税されているぞ、なんて、後から文句を言い出すようなことが増えてきたら、レストランも対応できなくなってしまいますね。国民全員が、これくらいどんぶりでっておおらかにいく必要もあるのかもしれません。

 

「経理方式」の問題については、税率が2種類になるので、それぞれの税率の商品を区別して記さないと正確な経理ができなくなるという点です。

とはいえ、それを厳密にやるには、手間も掛かるし、中小企業のような最新機器ををもっていないところは混乱も生じます。なので、当面は、軽減税率対象の商品に印をつけるだけで済ませる「簡素な経理方式」も4年間は認めようという「みなし特例」も導入されます。

しかし、中小・零細事業者への優遇措置としての「みなし仕入れ率」による仕入れ率の税額を推計するものや、販売時に受け取る税額も推計できる「みなし特例」などもあり、取引実態とかけ離れる懸念なども論点として挙がっています。

 

どの問題にしても、ある程度は「運用」を誠実に行っていく国民の秩序が必要になってくるのではないでしょうか。

誠実で、優遇が必要な企業・個人もあれば、それを悪用しようとする企業・個人も出てくることもあるでしょう。「誠実」な人が、損をしたと思うことのない運用をしていきたいものですね。

 

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