プロセスバンク by 得田裕介

経営コンサルタント problem solving and decision making

ソフトバンクの「ARM社(アーム)」の買収から「学ぶ」べきこと

今回は、ソフトバンクの「ARM社(アーム)」の買収から「学ぶ」べきことの”後編”
 

【2】IoT(インターネット・オブ・シングズ)市場の展望

についてです。

 ※前回は、【1】アーム社のビジネスモデル


孫社長が見据える「ゴール」から逆算し、「アーム」と「IoT市場」がどうつな
がっていくのかも示しながら、我々が『学ぶべきこと』をお伝えして参ります。

 

▼ゴールは人工知能が成すシンギュラリティ

まず、孫社長が目指すゴールは「人間と見分けのつかないほどの人工知能」です。
「知識」だけでなく、「自律学習」ができ、「感情」までをもち、人を「幸せ」
にできる。

それを、今の言葉では、「シンギュラリティ」とも言ったりします。
「人類が生命を超越するとき」です。
それが、2030年代に訪れるとか、2045年に大幅に上回るとか言われています。

ソフトバンクによると、2018年にはもう、一人がもつ脳細胞の数よりも、一つの
集積回路がもつトランジスタの数の方が多くなると言っています。

前号で、あらゆるものにセンサーがつく(IoT)ことを申しました。
例えば一つ、箸にもつくかもしれません。
箸の動きによって、食事の偏りを把握して最適レシピを提案する。
唇との接触によってヘルスチェックをし、最適な診療科を即時に提案する。

このように、身近なデータをとって、解析し、「提案」するということが日常で
繰り返されることが可能になります。

 

▼運用上の問題を解決するサーバー

しかし、ここには運用上の問題も出てきます。
その一つは、あふれかえるデータの保存です。
秒単位で、あらゆるデータが無限に蓄積されていくことになります。
たとえそれらを、大容量のクラウド・サーバーに送ったとしてもいずれパンクし
てしまいます。

どうすればいいのか。
まずは、そもそもデータは送って集めるのではなくて、発生源である機器それぞ
れに残した方が効率がいいのではないかとも思われます。
しかし、箸のように小さなものには、さすがに容量に限りがあります。
それならば、箸にも人工知能を入れて、必要なデータだけに「取捨選択」すれば
いいのではないでしょうか。
あるいは、発生源の機器周辺に、ミニサーバーを置いて、データを「分散」させ
ることもいいかもしれません。

ここで必要になってくるのが、アームの特長である「小型化・省電力化」です。
あらゆるモノに脳(半導体)が入り、それに伴う最大のランニング・コスト、電
力を最小化する。

孫社長は、サーバー市場が今後の有望市場だと言いました。
実はアームの事業では、サーバー市場は最もシェアが低い(<1%)領域です。
それでも、有望という1つの要素は、新たな「パイが増える」ということだと思
います。
そのパイとは、まずは上記のようにデータの保存場所のこと。
そしてさらに、スーパーコンピューターのような究極の人工知能を目指すものも
含まれるのではないでしょうか。
既に、富士通スパコン「京」の後継機に、アームの技術が採用されました。
人工知能の開発を「加速」させるそうです。

 

▼協業体制によって手に入るコアな情報こそが真の目的か

ソフトバンクはメーカーではありません。直接の関係性はありません。
しかし、このようなアームの「協業体制」を通していけば、知りえないはずの極
めて「コアな『情報』」が入ってくることになります。

これら情報があれば、何ができるでしょうか。
ソフトバンク「自身」の人工知能の「開発」に活かせます。
ソフトバンクのプラットフォームを利用する「サービスプロバイダーに」対し
て、新たな技術を活用した「サービス提供を促す提案」ができることになります。
・アームと協業する「メーカーに」対しても、様々な仕掛けを提案できるかもし
れません。

 

▼我々が学ぶべきことをまとめてみよう
ここで、一旦立ち止まって、上記を通して我々が学ぶべきことを整理させて下さ
い。

IoTは、あらゆる分野に影響を及ぼすプラットフォームであること。
 食品業界でも、農業でも、教育でも、全ての分野でからんできます。
 なので、もしこんなデータが手に入ったなら、どんなことが実現できるだろうと想像することをお勧めします。

 

IoTは爆発的な発展をしているので、運用上の問題も多大なビジネスチャンス
となる。


一見、関係性のないことでも、将来のビジョンに向けて「力づく」でも「つな
げて」しまおう。

 

誰も知りえない「情報」は、お金を出してでも、それを「取りに行く方法」を
考えてみること。

 

▼最後の情報収集は、最も重要です。

情報は、必要な時にこそ、センサー(疑問)が働いて効率的に収集できます。
しかし、それでは意思決定の瞬間には情報が足りない可能性があります。
なので、常に何かしらの「疑問」をもっておいて、情報を吸い込んでおく必要が
あります。

とはいえ、疑問も関心も、平時にはわいてこないという方も多いでしょう。
そんな時には、これ「やれたらいいな!」という「欲求」を持つことをお勧めし
ます。

その瞬間、やれるようになるためには、何が必要かなと思考が自走し始めます。

そして、もう一つは、情報を取るための「手段」。これはぜひ工夫してください。
誰にとっても、非常に難しいことです。

なので、この点は、私自身が皆さんに、使える情報を提供できるようにしたいと
努力しております。

例えば一つ、「定額」で、情報の「定期配信」と「相談」をセットにしたサービ
スも企画中です。
この点も、「こんなのしてくれたらいいな!」がありましたら、ぜひともおっし
ゃって下さい。

 

最後に、孫社長の実弟である孫泰蔵氏が、孫社長の情報収集に関してコメントを
だしていらっしゃいました。それを引用して、今回は終わりにします。

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その過程で、彼はITに関する非常に広範な知識と人脈を獲得していった。
彼と話をするとよくわかるのだが、通信はもちろんOSからアプリケーション、放
送・通信機器や家電などのハードウェアから半導体に至るまで、そんじょそこら
のどんなエンジニアにも負けないアーキテクチャに関する最新知識を持っていて
驚きを禁じ得ない。こちらも最新知識だけでは絶対に負けたくない、と思って必
死に勉強していても、それをさらに上回る知識と見識を常に持っていて、いつも
脱帽させられた(少しでも差を縮めようとしているのに、いつも引き離された感
じがして本当に悔しい)。

なにせ、その道のトップの会社のCEOやCTOから最新技術について直接レクチャー
を受け続けているので、どこの技術メディアや技術解説本にも載っていないよう
なことをいつも教えてもらうばかりであった(最後には「お前はそんなことも知
らんのか。お前もまだまだやのう」が口癖。腹立つ(笑))

さらにどんなエンジニアでも絶対に彼にかなわないのは、それらのテクノロジー
のBOM(製造原価)やライセンスロイヤリティーについて全部知っていること。
これは外部で調べても絶対に把握することは不可能な情報で、共同で技術開発を
しているとか、大量に購入する取引があるとか、直接事業上の関係がないと絶対
につかめないもので、これだけは他の追随を許さないテクノロジーの評価者とし
ての彼の最大の強みである。

テクノロジーについて技術的価値と経済的価値の両方をもって未来を予測できる
こと。これだけは世界の誰も逆立ちしても彼の右に出る者はそうそういないわけ
で、その意味では彼はたしかに「世界最強のベンチャーキャピタリスト」と言っ
ても過言ではない。ある方が「孫正義はもはや事業会社の社長ではなくVCファン
ドのパートナーのよう」とおっしゃっていたのだが、それは半分大間違いで、半
分大正解なのだ。
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